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2026-09-04 22:54:00

AIに「この作品は何のためにあるか」を渡す — 設定ファイル01の中身

AIと小説をつくる仕組み・全8回 第3回

――AIエージェント全員が戻る、いちばん上の基準をつくる

AIに「この作品は何のためにあるか」を渡す — 設定ファイル01の中身

AIと小説をつくる仕組みを紹介する、全8回連載の第3回です。

前回の 「設定ファイルを16個に分けた話」 では、作品の情報を分けて管理する全体像を紹介しました。 今回は、その入口となる 「作品の目的と前提」 を取り上げます。

この連載でいうAIエージェントは、 執筆や評価などの役割と指示を受けて作業するAIです。

そのAIに小説を任せるとき、最初に共有したいのは、 作品が何を目指しているかです。

登場人物の名前やあらすじだけでは、 場面をどう描き、何を基準に直すかの判断まではそろいません。

そこで用意しているのが、 「作品の目的と前提」という設定ファイルです。 AIが作品世界に入るための入口であり、 判断に迷ったときに戻る基準でもあります。

最上位の目的を共有する

『13歳、わたしはお金持ちになると決めた。100の問い』では、 最上位の目的を 「人間が変わる一回分を、物語としてシミュレートすること」 と定めています。

登場人物をある状況に置く。 そこから感情が生まれ、小さな行動につながる。 行動には結果が返り、問いが残る。 このつながりを、各回の土台にしています。

設定ファイルでは、品質の物差しを 「人間は本当にこう変わるか」 としています。

読み違えたり、体験をうまく言葉にできなかったりすることも、 その人物にとって自然なら残します。 執筆担当にも評価担当にも、この基準を渡します。

実際に、Q44のv2の評価で指摘されたのは、 地の文の採点癖でした。

理由になっているような、なっていないような答えだった。

この一文は、登場人物の答えを、 読者が受け取るより先に地の文が採点しています。

答えの曖昧さをそのまま置けば、 読者は会話から自分で受け取れます。 ところが、語り手が評価を添えると、その余白が狭まります。

興味深いのは、この一文が 総合88点の稿にも残っていたことです。

点数上の承認基準は85点以上で、 評価レポートでも承認可能とされていました。 それでもv4で再び指摘され、 最終的な確定稿で削除しました。

v4で指摘された地の文は3か所あり、 削除したのは2つ、1つは残しています。

「理由になっているような、なっていないような答えだった」と 「閉じても、遅かった」は削除し、 「長く感じた」は残しました。

点数だけで判断が決まるわけではありません。

AIの指摘を受け取り、 「人間は本当にこう変わるか」という最上位の目的に照らして、 最後は書き手が選びます。

作品の目的を共有する意味は、こうした検討にもあります。

「経験の意味を説明しすぎない」という文体の規則とつなげることで、 AIは具体的な一文を指摘できる。 書き手も、その指摘を採用するかどうかを、 作品全体の基準に戻って考えられます。

人物が持ち込む願いを渡す

作品の目的だけでは、人物ごとの動きは決まりません。 そこで、このファイルには、 二人が物語に持ち込む願いも記しています。

人物 出発点 相手の家庭に求めるもの
ルミ お金があれば遠慮しなくていい 経営の知恵や、成功した環境
莉子 好きなことがわからない 愛と調和のある温かさ

二人は同じ目標へ向かっていても、 同じものを求めているわけではありません。 その違いが、協力にもすれ違いにもつながります。

AIには、こうした背景を 台詞や行動を選ぶ根拠として使ってもらいます。

人物の性格を「明るい」「慎重」といった言葉で覚えるだけでなく、 何に惹かれ、何を手に入れようとしているのか まで共有しておくためです。

物語全体の到達点も記しています。

本作では、二人が移動式パン屋を事業として成功させ、 その後に、成功だけでは対処できない出来事へ向き合います。

この順序を共有しておかないと、 目の前の回を盛り上げるための変更が、 長期的な設計を崩しかねません。

GraceというAIコーチの役割も、その前提のひとつです。

前半はルミに問いを返し、 後半は二人の実践を支える共同コーチになります。 支援の方法が変わっても、 選択と行動の主体は二人に残ります。

ここを共有することで、 Graceの提案だけで物語が進むことを防ぎます。

AIに伝えることと、読者に伏せること

設定ファイルには、 作品の奥にある問いや終盤の設計まで記しています。 執筆するAIには、全体を理解してもらう必要があるからです。

ただし、 それを本文のどこで読者に伝えるかは別の判断です。

たとえば、莉子がルミの家庭に何を求めているのかは、 制作側が共有する情報です。

本文では莉子の内面を直接説明せず、 言葉、視線、動作、沈黙を通して描きます。

AIが背景を知っているからといって、 その知識を地の文に書いてよいわけではありません。

作品が最後に向き合う問いも同様です。 読者には、まず二人の商売や関係の行方を追ってもらいます。

テーマを先回りして説明すると、 出来事に直面して考える機会を奪ってしまいます。

設定ファイルには、 「知っておくべきこと」と 「まだ書いてはいけないこと」の両方 が必要です。

全体を知るAIが、 その時点のルミに見える範囲で場面を書く。 その境界を支えるのも、このファイルの役割です。

他のファイルとつなげて使う

「作品の目的と前提」には、 すべての指示を詰め込んでいません。

人物の詳細、禁止事項、文体、各回の場面設計、 確定済みの出来事は、 それぞれ別のファイルで管理しています。

このファイルは、 それらを読むときの共通の土台です。

Q44の例でも、 作品の目的だけで修正箇所が決まるわけではありません。

「経験の意味を説明しすぎない」という文体の規則と照らし合わせることで、 具体的な一文への指摘になります。

大きな目的と細かな規則をつなげて使うことが、 執筆と評価の判断をそろえます。

担当するAIや執筆する回が変わっても、 「この作品は何を目指しているのか」に戻れるようにする。

そのために、作品世界への入口をファイルとして用意しています。

該当する設定ファイル

01_premise.md

作品の最上位の目的、核心となる問い、 ルミと莉子の出発点、二つの家庭の対比、 移動式パン屋の位置づけ、Graceの役割、 読者に届けたい体験、物語の到達点をまとめています。

AIエージェントが場面を書く前に読み、 作品全体の方向を確認するためのファイルです。

関連する 00_priority.md は、 設定同士が食い違った場合の優先順位を定めています。

後半の詳細は、 14_simulation_phase_q51_100.md が Graceとの共同実践や終盤の進め方を、 15_mobile_bakery_reality.md が 移動式パン屋の責任体制、安全、採算、成功条件を定めています。

前回: 設定ファイルを16個に分けた話

次回: 「文体を憲法にする」