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2026-08-15 18:05:00

AIと会員サイトをつくり始めたら、123件のテスト仕様書ができた件

AIと会員サイトをつくり始めたら、123件のテスト仕様書ができた件

――何人もの専門家が行うレビューを、AIとの対話で繰り返した「Power Pagesへの挑戦」

この記事の要点

私はいま、Digital Supporters Clubという会員制クラブサイトをつくっています。

最初の挑戦として、 Microsoft Power Pages、Dataverse、Power Automateを使った 会員サイトの設計に取り組みました。

そこで最も驚いたのは、 AIがコードを書けることではありませんでした。

本来なら、要件、データベース、画面、セキュリティ、運用、テストなど、 それぞれの専門家が行うレビューを、 AIとの対話の中で何度も繰り返せたことです。

一つの問題が見つかる。 前の設計へ戻る。 修正すると別の設計との矛盾が見つかる。 また戻る。

そんな往復を何十回も繰り返した結果、 要件定義書から始まった設計は、 最終的に123件のテストケースを持つMVPテスト仕様書まで育ちました。

そして現在は、Power Pagesにこだわらず、 SharePointを中心に、もっと小さなクラブサイトから始める方向へ進んでいます。

この記事は完成したサイトの紹介ではありません。 AIと一緒にクラブサイトをつくっていく、その第1章の記録です。

この記事を貫く4つの気づき
  1. AIは「作る人」だけでなく、「レビューする人」にもなれる
  2. 後工程から前工程へ何度でも戻れることが、仕様を強くする
  3. 仕様書は「作るため」だけでなく、「作るべきか」を判断するためにも役立つ
  4. Power Pagesへの挑戦は終わりではなく、SharePointで始めるための第1章だった

今回の経験を通して感じたのは、 AIが変えるのは単なる「作業時間」ではなく、 考え直し、レビューし、設計をやり直すコストそのものなのかもしれない ということです。

1.いちばん驚いたのは、AIがコードを書いたことではなかった

今回、AIを使って会員サイトの設計をしていて、 いちばん驚いたことがあります。

AIが文章を書けることでもありません。

プログラムを書けることでもありません。

本来なら何人もの人が関わるはずの「レビューの工程」を、 AIとの対話の中で何度も繰り返せたことでした。

システム開発では、さまざまな役割の人が関わります。

  • ビジネスの要件を整理する人
  • データベースを設計する人
  • 画面や操作の流れを考える人
  • セキュリティや権限を考える人
  • 自動処理を設計する人
  • 運用ルールを考える人
  • 最後にテストする人

それぞれが、自分の専門分野から設計を見ます。

「この場合はどうなるのか」
「この設計は、前に決めた要件と矛盾していないか」
「他の会員のデータが見えてしまうことはないか」
「途中で処理に失敗したらどうするのか」

そうやってレビューしながら、一つのシステムをつくっていきます。

今回、それに近いことが、 私一人とAIとの対話の中で起きました。

もちろん、AIがすべてを決めてくれたわけではありません。

AIが問いを出す

私が考える

方針を決める

設計書へ反映する

別の設計との矛盾が見つかる

また考える

この往復を、何十回も繰り返しました。

そして、そこから今回のクラブサイト開発が始まりました。

2.つくりたいのは、「また書きたくなる場所」

私はいま、 Digital Supporters Club という会員制クラブサイトをつくろうとしています。

目指しているのは、 SNSのように人気を競う場所ではありません。

小説。
エッセイ。
自分史。
思い出。
体験。
空想の物語。

「自分も何か書いてみたい」

そう思った人が、 自分のペースで少しずつ言葉を形にしていく場所です。

書く

保存する

また続きを書く

希望すればクラブの仲間に読んでもらう

短い感想が届く

また書く

誰かに評価してもらうためではありません。

「誰かが読んでくれた」
「言葉を届けてくれた」

という小さな体験が、また書く力になる。

そんな場所をつくりたいと思いました。

最初の技術基盤として選んだのが、 Microsoft Power Platformでした。

  • Power Pagesで会員サイトをつくる
  • Dataverseに会員や作品のデータを保存する
  • Power Automateで公開処理などを動かす

企業システムにも使われる仕組みなら、 会員ごとのアクセス権や非公開作品の保護もしっかり設計できるだろう。

そう考えました。

これが、クラブサイトづくりの最初の挑戦でした。

3.最初にAIへ伝えたのは、たった一つのイメージだった

最初から細かな仕様があったわけではありません。

AIエージェントに伝えたのは、 おおよそ次のようなことでした。

読者が自分の作品を書いて、 希望すればクラブの会員に公開して、 感想をもらえる場所をつくりたい。

そこから、要件定義を始めました。

ところが対話を始めてみると、 一見簡単そうな言葉の中に、 たくさんの決め事が隠れていることに気づきました。

たとえば、 「公開する」 という言葉です。

4.「公開する」とは、どういうことなのか

「作品を公開できるようにしたい」

最初は、それだけでした。

でも設計するためには、それだけでは足りません。

公開とは、インターネット全体への公開なのか。

クラブ会員だけへの公開なのか。

作品を書いて「保存する」を押したら公開されるのか。

作者が明示的に 「クラブ会員に公開する」 と押した場合だけなのか。

一度公開した作品を作者が書き直している途中で、 その書きかけまで他の会員に見えるのか。

公開をやめたら、 それまでに届いた感想はどうなるのか。

削除するのか。

残すのか。

残すなら、誰が読めるのか。

一つ答えると、次の問いが出てきます。

そこで、 保存することと、公開することは完全に分けよう と決めました。

書く

保存する

ここまでは本人だけ

本人が「クラブ会員に公開する」を選ぶ

初めて公開処理を行う

書いて保存しただけでは、他の人には見えない。

初期状態は必ず「自分だけ」。

さらに、本人が執筆している原稿そのものを 他の会員へ直接開放するのではなく、 公開用の別データへコピーすることにしました。

そうすれば、公開後に作者が原稿を書き直している途中でも、 その書きかけが勝手に公開されることはありません。

「公開する」という一言から、 データベースの構造まで変わっていきました。

5.完成したのは、サイトではなかった

こうして設計を進めているうちに、 当初は意識していなかった別の成果が、少しずつ形になっていきました。

まだPower Pagesの会員サイトは完成していません。

ところが、設計書は次々と出来上がっていきました。

  • 要件定義書
  • Dataverse データ設計書
  • Power Pages MVP 画面設計書
  • Power Pages テーブル権限設計書
  • Power Automate 公開処理設計書
  • Phase 1 運用ルール
  • MVP テスト仕様書

しかも、これらは一度書いて終わりではありません。

v1.0。
v1.1。
v1.2。

Dataverseのデータ設計は、 さらにv1.5まで進みました。

後工程で問題を見つけるたびに、 前の設計へ戻って直していったからです。

サイトをつくろうとしていたはずなのに、 気づけば、そのサイトをつくるための「設計の層」が 何層にも積み上がっていました。

6.画面を考えたら、要件の穴が見つかった

特に印象に残っているのが、 「感想」 の扱いです。

作品を読んだクラブ会員は、 作者へ短い感想を届けることができます。

ただし、誹謗中傷や個人情報の書き込みなど、 不適切な感想については、 運営が非表示にできるようにする。

ここまでは簡単でした。

ところが実際の画面の流れを一つずつ考えていたとき、 妙なことに気づきました。

感想が非表示になると、 その感想を書いた本人が、 通常の画面から自分の投稿へたどり着けなくなる可能性があります。

では後から、

「自分が書いた感想を削除したい」

と思ったら、どうするのでしょう。

最初の要件定義には、答えがありませんでした。

画面の小さな問題に見えました。

しかし実際には、

誰が

どの状態の

どのデータを

読めるのか

という、アクセス権そのものの問題でした。

公開中の感想。

作品の公開をやめた後の感想。

運営によって非表示にされた感想。

それらを同じ権限で扱ってよいのか。

ここから、

  • 要件
  • Dataverseのデータ構造
  • Power Pagesのアクセス権
  • Power Automateの処理
  • 運用ルール

まで見直すことになりました。

最終的には、公開中の感想と、 作者だけが読める状態になった感想とで、 アクセス経路そのものを分ける設計へ進みました。

しかし、すべてをシステム化したわけではありません。

非表示後など、 投稿者本人が通常画面から感想に到達できない場合の削除については、 Phase 1では専用機能をつくらず、 運営への個別依頼で対応することにしました。

よいシステムとは、 すべてを自動化したシステムではない。

システムで解決するもの。

人が運用で受けるもの。

その境界を決めることも、 設計なのだと思います。

7.たった一つの項目が、セキュリティの問題になった

もう一つ印象に残っているのが、 作品の「公開状態」でした。

作品には、

  • 自分だけ
  • クラブ会員に公開

という状態があります。

一見すると、会員が画面からこの二つを選択できればよさそうです。

ところが、自動処理の設計を進めている途中で疑問が出ました。

もし会員が、この公開状態を直接変更できたらどうなるのか。

本来は、

クラブ会員に公開する

公開する本文を取得する

公開用データを作成する

処理が成功したことを確認する

公開中にする

という順番です。

ところが「公開中」という管理項目だけを直接書き換えられれば、 この処理を飛び越えられる可能性があります。

そこで公開状態は、 会員が自由に変更する項目ではなく、 システムが管理する項目 に変わりました。

さらに、 「画面から項目を隠せばいい」 という話でもありませんでした。

URLを直接指定したらどうなるのか。

他人の作品のIDが分かったらどうなるのか。

内部の管理項目を書き換えようとしたらどうなるのか。

「画面に表示されないこと」と、 「アクセスできないこと」は違う。

この小さな疑問も、 最後には正式なセキュリティテストになっていきました。

8.123件のテストケースまでつながった

最終的に作成したMVPテスト仕様書には、 123件のテストケース が並びました。

たとえば、

  • 18歳の誕生日当日なら申し込めるか
  • 18歳の誕生日前日なら拒否されるか
  • 他人の非公開作品を取得できないか
  • 保存しただけでは公開されないか
  • 公開中の原稿を書き直しても公開版が勝手に変わらないか
  • 公開を停止した作品が「みんなの作品」から消えるか
  • 公開停止後の感想を他の会員が取得できないか
  • 非表示にした感想をGUIDやURLの直接指定で取得できないか
  • 利用停止になった会員のアクセス権が外れるか

といった項目です。

そして最後には、 Digital Supporters Clubで本当に実現したかった体験そのものを 確認するテストまで入っています。

書く

保存する

続きを書く

公開する

誰かが読む

感想が届く

また書く

最初は、

「作品を書いて、公開して、感想をもらえるサイトをつくりたい」

という一文でした。

それが、AIエージェントとの対話を重ねるうちに、驚くほど短い時間で123件のテスト項目へと展開していきました。

9.AIが変えたのは、「考え直すコスト」だった

今回の経験で、 私が最も大きいと感じたのはここです。

人間のチームで、

「やっぱり要件定義まで戻りましょう」

と言うのは、簡単ではありません。

  • 担当者に説明する
  • 会議を設定する
  • 設計書を修正する
  • 別の担当者がレビューする
  • 影響範囲を調べる
  • 場合によっては、すでにつくったものまで変更する

つまり、設計の手直しには、それなりのコストがかかります。

ところがAIとの対話では、

「待って。この場合はどうなる?」

と思ったところから、 すぐに前の工程へ戻ることができます。

要件を確認する

データ設計を直す

権限設計を直す

自動処理を直す

画面を直す

運用を直す

テスト項目へ落とす

これを何度でも繰り返せます。

もちろん、AIが常に正しいわけではありません。

複数のAIモデルをつかうと、AI同士の提案が違うこともあります。

最終的に、

「このサービスでは、どうするのか」

を決めるのは人間です。

考え直す。
レビューする。
前へ戻る。
もう一度確かめる。

このコストが大きく下がった。

私はここに、 AIによって変わるシステム開発の大きな可能性を感じました。

10.そして、ライセンス費用という現実がやってきた

かなり設計が進み、 「いよいよ実装へ」 という段階まで来ました。

そこで、別の問題が見えてきました。

ライセンス費用です。

Power Platformを使って、 外部の会員向けサービスを本格運用する場合、 当初考えていた以上の費用が必要になることが分かりました。

技術的には、つくれそうです。

設計も、かなり進みました。

しかし、つくれることと、 今それを選ぶべきことは同じではない。

まだ始まったばかりのクラブです。

最初から大きな仕組みを持つ必要はありません。

そこで、Power Pagesでそのまま実装することにはこだわらず、 いったん方向を変えることにしました。

現在は、手元で利用できる SharePointを中心に、もっと小さなクラブサイトから始める 方向へ進んでいます。

11.Power Pagesへの挑戦は、無駄だったのか

では、ここまで作った設計書は無駄だったのでしょうか。

私は、まったく逆だと思っています。

もし最初から画面をつくり始めていたら、

  • 非公開とは何か
  • 公開とは何か
  • 誰が、何を見ることができるのか
  • 公開を停止した後の感想をどうするのか
  • どこまでシステムで行い、どこから人が運用するのか

といった問題を、 実装しながら考えることになっていたでしょう。

今回はPower Pagesへの挑戦を通して、 それらを先に考えることができました。

そして費用まで含めて、

「この仕組みを今、本当に採用するべきか」

を判断できました。

仕様書は、 システムをつくるためだけのものではない。

そのシステムを、本当につくるべきなのかを 考えるためのものでもある。

Power Pagesで作った設計書は、 Power Pagesだけのためのものではありません。

Digital Supporters Clubで、

  • 何を大切にするのか
  • 何を守るのか
  • 何を会員本人に決めてもらうのか
  • どこまで自動化するのか

その考え方の土台になりました。

だから、Power Pagesへの挑戦は、

「作れなかったサイトの記録」

ではありません。

これからクラブサイトをつくるための、 第1回目の設計実験だった。

今は、そう考えています。

12.第2章は、SharePointから始まる

クラブサイトは、まだ完成していません。

だから、この開発記録もまだ終わりません。

次はSharePointを中心に、 まずはもっと小さく動くものをつくります。

作る

使う

気づく

改善する

最初から100点のシステムをつくるのではなく、 まず動くものをつくり、 実際に使ってみる。

そこで、本当に必要なものを見つけていく。

Power Pagesで考えたことのすべてを、 そのままSharePointへ持っていく必要はありません。

むしろ、

「これは本当にMVPに必要なのか」

と、もう一度考えられます。

ただし、

  • 会員本人の作品を守る
  • 公開は本人の意思で行う
  • 保存と公開を混同しない
  • 人とのつながりを競争にしない
  • コミュニティは「また書く」ために使う

といった基本的な考え方は変わりません。

技術は変わっても、 サービスの目的は変わらないからです。

13.AIと人間の役割は、少しずつ変わっていく

今回のPower Pagesへの挑戦を振り返ると、 AIとの関係についても、 一つ見えてきたことがあります。

AIに、

「仕様書を書いてください」

と頼めば、 それらしい文書をつくることはできます。

でも、それだけでは今回のような設計にはなりませんでした。

実際に起きていたのは、

人間が目的を示す

AIが設計案を出す

別の視点からレビューする

問題が見つかる

人間が判断する

仕様を更新する

別の設計との整合性を確認する

また問題が見つかる

という繰り返しでした。

AIは、先生でもありません。

最終決定者でもありません。

私にとってAIは、 設計者でもあり、レビュアーでもあり、 ときには「そこは本当に大丈夫ですか」と 問い返してくる相手でした。

これまで仕様書を書く仕事は、 複数の専門性を持つ人たちの協働によって成り立ってきました。

もちろん、 大規模なシステム開発で専門家が必要なくなるとは思いません。

セキュリティ、法務、インフラ、運用など、 人間の専門家による確認が重要な領域は残ります。

それでも、小さなプロジェクトの最初の段階で、

一人の人間がアイデアを持ち、 AIと何度も対話し、 要件を考え、 データを考え、 画面を考え、 権限を考え、 運用を考え、 最後にはテストまで考える。

そこまで進めることができる。

これは、少し前なら考えにくかったことだと思います。

AIが安くしたのは、 単にプログラムを書くコストではありませんでした。

「もう一度、考え直してみよう」

と言えるコストが、 大きく下がった。

Digital Supporters Clubのクラブサイトづくりは、 まだ途中です。

Power Pagesへの挑戦が第1章。

次はSharePointで、 実際に動く小さなクラブサイトをつくります。

そこで何ができるのか。

何につまずくのか。

そして、AIとの開発が次にどう変わっていくのか。

その過程も、 引き続き書き残していこうと思っています。

今回作成した主な設計ドキュメント

  • Digital Supporters Club 要件定義書
  • Dataverse データ設計書
  • Power Pages MVP 画面設計書
  • Power Pages テーブル権限設計書
  • Power Automate 公開処理設計書
  • Digital Supporters Club Phase 1 運用ルール
  • Digital Supporters Club MVP テスト仕様書

最後のMVPテスト仕様書では、 正常系だけでなく、異常系、境界値、アクセス制御、 非同期処理、運用を含め、 合計123件の正式テストケースまで整理しました。

そして次は、 この設計で得たものを持って、 SharePoint版のクラブサイトづくり へ進みます。

2026-08-09 15:15:00

AIに小説を書かせた1年ではなく、「AIが働く環境」をつくった1年

AIに小説を書かせた1年ではなく、「AIが働く環境」をつくった1年

――Prompt Engineeringから、Context Engineering、Harness Engineering、Loop Engineeringへ

この記事の要点

約1年間、ChatGPTとClaudeを使って長編小説を制作してきました。 最初はPrompt Engineeringが中心でしたが、設定ファイルによるContext Engineering、 AIが働く環境をつくるHarness Engineering、 そして生成・評価・修正を繰り返すLoop Engineeringへと、 私のAIの使い方は変化していきました。

この記事では、その実体験を、2025年から2026年にかけてAI業界で起きている変化と重ねて整理します。

この記事を貫く4つの考え方
  1. Prompt Engineering ―― AIへの「指示」を設計する
  2. Context Engineering ―― AIが使う「情報」を設計する
  3. Harness Engineering ―― AIが働く「環境」を設計する
  4. Loop Engineering ―― 生成・評価・修正の「反復」を設計する

4つは世代交代ではありません。 AIに対して人間が設計する範囲が、少しずつ外側へ広がっていく と考えると分かりやすいと思います。

去年の今ごろから、私はChatGPTを使って小説を書き始めました。

作品のタイトルは、 『13歳、わたしはお金持ちになると決めた。100の問い』 です。

13歳の少女が「お金持ちになりたい」というところから出発し、 100の問いとさまざまな体験を通して、ビジネス、豊かさ、 そして「よく生きるとは何か」という問いへ進んでいく長編小説です。

作品の設定ファイルには、このプロジェクトの目的を、 単に「文章を作る作業」ではなく、 「人間が変わる一回分を、物語としてシミュレートする作業」 と定義しています。

品質の基準も、「文章がうまいか」ではありません。 「人間は本当にこう変わるか」です。

ただ、最初からAIに小説を書かせること自体が目的だったわけではありません。

私が知りたかったのは、 生成AIとは、いったい何なのか。 ということでした。

ChatGPTを使えば何ができるのか。 どこまで任せられるのか。 どこから人間が考えなければならないのか。

記事を読んだり、専門家の話を聞いたりするだけではなく、 自分自身が当事者になれる「現場」を持ちたかったのです。 そこで、小説を書くことにしました。

そして約1年間、その現場で問題にぶつかるたびに、 AIを使って解決してきました。

振り返ってみると、私のAIの使い方は、 Prompt Engineering → Context Engineering → Harness Engineering → Loop Engineering という流れで整理できます。

これは、業界で正式に決められた4段階の進化モデルではありません。 私自身の1年間を整理すると、この順番が一番しっくりくる、ということです。

ところが後から調べてみると、2025年から2026年にかけて、 AI業界でもかなり近い方向への変化が語られるようになっていました。

1.Prompt Engineering――「どう頼むか」を考えていた

最初の半年から7か月くらいは、ごく普通にChatGPTとチャットしていました。

「この場面を書いてください」
「もう少し自然な会話にしてください」
「主人公はそんな言い方をしません」
「ここをもっと面白くしてください」

AIが書く。私が読む。修正点を伝える。またAIが書く。

今から考えれば、これはまさにPrompt Engineeringの世界です。 つまり、 どういう入力をすれば、自分の欲しい出力をAIから引き出せるか を考えることです。

もちろん、これは今でも重要です。 ところが、小説のような長いものを半年、7か月と書き続けていると、 少しおかしなことが起きました。

私は小説を書いているはずなのに、 「AIにどう伝えるか」ばかり考えるようになったのです。

AIが文章を書く

私が修正する

プロンプトを書き直す

コピー&ペーストする

また説明して、また直す

プロンプトを書く技術は上がっていきます。 でも、創作はあまり楽しくなっていない。

本来、私が考えたかったのは、 「この人物なら、ここで何をするのだろう」 「この2人は、ここですれ違うのか」 「この出来事のあと、何が残るのか」 ということでした。

ところが実際には、AIを操作することに時間を使っている。 創作が、いつの間にか「作業」になっていました。

毎回、うまいプロンプトを書くこと以外にも方法があるのではないか。

2.Context Engineering――毎回説明することをやめた

転換点になったのは、今年の1月から2月ごろです。

小説を書いていると、毎回AIに説明していることが大量にあります。

  • 主人公は誰なのか
  • 何歳なのか
  • どんな性格なのか
  • 誰とどんな関係なのか
  • 前の話で何が起きたのか
  • 現在は何月なのか
  • ある人物の名前を、主人公はもう知っているのか
  • この言葉は、物語のこの段階で使っていいのか

こうしたことを、毎回プロンプトに書いていました。 そこで、これらをプロンプトから切り離し、 設定ファイルとして管理することにしました。

現在の私の小説プロジェクトには、たとえば次のようなファイルがあります。

  • 作品全体の前提(Premise)
  • 登場人物(Characters)
  • 全体構成(Structure)
  • 文体(Style)
  • 100の問い
  • 場所(Locations)
  • 禁止表現(Forbidden)
  • 詳細なStyle Guide
  • 各章のScene Plan
  • Timeline
  • 友情関係の変化
  • Glossary
  • 小道具や生活描写のDetail
  • Character Check

ここで大切なのは、ただ大量の設定を1つの巨大なファイルに詰め込んでいるわけではない、 ということです。 情報の役割を分けています。

たとえばGlossaryでは、金額や誕生日だけでなく、 「この人物の名前を主人公が知るのは問い47から」 「Graceは声だけで、画面には映らない」 「ある小道具は現在どこにある」 といった「現在の状態」まで管理しています。

つまり、 AIに何を知っていてほしいか だけではありません。 AIに、今はまだ何を知らないでいてほしいか まで管理するわけです。

未来の展開をAIが知っているからといって、 現在の主人公まで知っているように書いてしまえば、物語は壊れてしまいます。

3.AI業界でも「PromptからContextへ」が語られ始めた

後から知ったのですが、このころAI業界でも Context Engineeringという言葉が注目され始めていました。

Anthropicは2025年9月29日、 「Effective context engineering for AI agents」 を公開しています。

そこでは、Prompt Engineeringの焦点が「効果的な指示をどう書くか」であるのに対し、 Agentが複数ターン・長時間にわたって仕事をするようになると、 システム指示、ツール、外部データ、会話履歴などを含め、 その時点でモデルが利用できるContext全体をどう管理するか が重要になると説明されています。

しかも、Contextは多ければ多いほどいいわけではありません。 必要な情報を選び、必要なタイミングで取り出し、 モデルの限られた注意を重要な情報へ向ける必要があります。

これは、私が小説を書きながら経験したことと非常によく似ています。

Prompt Engineeringが「どう頼むか」だとすれば、
Context Engineeringは「AIが判断するとき、何を知っている状態をつくるか」。

4.Contextを増やしたら、今度は設定同士が喧嘩した

ところが、設定ファイルを増やせば解決、というほど単純ではありませんでした。 今度は、設定同士が矛盾するという問題が起きました。

長編を書いていると、物語は変化します。 最初に決めた展開より、実際に書いて生まれた展開のほうが良かった。 キャラクターが想定と違う方向へ動いた。 作者である私自身が「こちらを正式設定にしよう」と変更することもあります。

すると、古いCharacter設定と新しいScene PlanのどちらをAIは信じればいいのか。 Timelineと古いOutlineが違っていたらどうするのか、という問題が起きます。

そこで現在は、 設定ファイル同士の優先順位を定義するファイル まで作っています。

  1. 禁止事項
  2. 文体の憲法
  3. Glossary
  4. Timeline
  5. Scene Plan
  6. Premise
  7. Characters / Structureなど

衝突したときに何を「正」とするかをあらかじめ決め、 新しいScene PlanやTimelineで確定した内容と古い設定が食い違えば、 新しい確定情報を優先します。

ここまで来ると、「長いプロンプトを書いている」というより、 AIが参照する小さな情報システムを作っている感覚に近くなりました。

5.「なんとなく違う」を文体ルールに変える

もう1つ大きかったのが、文体です。

以前は、「もう少し自然に」「説明しすぎないで」「もう少し余白を残して」と、 その都度AIに言っていました。 しかし、「自然に」という言葉はかなり曖昧です。

そこで、できる限り具体的なルールにしました。

たとえば私の小説では、

  • 感情を直接書かない
  • 行動、沈黙、環境描写で感情を見せる
  • 平均的な文の長さを決める
  • 40字を超える文章の割合を決める
  • 地の文と会話の比率を決める
  • 段落の構造を決める
  • 数字の表記方法を統一する
  • 会話文の句点の扱いを決める
  • ノートやLINEの表記方法を決める

さらに、「〜と気づいた」「〜を学んだ」「〜ということがわかった」といった、 AIがつい書きがちな説明表現も禁止しています。

以前なら出力を見て「なんとなく違う」と思っていた。 その「なんとなく」を少しずつ言葉にして、 Contextへ移していったのです。

そうすると、毎回同じ修正をAIへ伝える必要がなくなりました。

6.ChatGPTとClaudeを使い分け始める

このころから、AnthropicのClaudeも本格的に使い始めました。

私の使った感覚では、ChatGPTにはアイデアを広げたり、 物語の構成を考えたりするときの面白さがありました。 一方、Claudeには、長い文章や複数の設定を参照しながら、 日本語の本文を組み立ててもらうときの使いやすさを感じました。

  • 構成やアイデアはChatGPT
  • 本文はClaude
  • 最後のチェックはChatGPT

という形になりました。

ところが、また問題が起きます。

ChatGPTからClaudeへコピーする
ClaudeからChatGPTへ戻す
設定ファイルを更新する
本文を保存する
Timelineを書き換える
Glossaryを書き換える

AIは便利になった。 でも、人間がAIとAIの間の運搬係をしている。

これでは、まだ創作そのものに集中できません。

7.Harness Engineering――「AIが働く環境」をつくり始めた

そこでClaudeのCoworkを使うようになりました。

パソコン側に本文や設定ファイルを置く

AIがファイルを読む

必要なContextを参照する

Scene Planに沿って本文を書く

結果を保存する

確定内容を設定ファイルへ反映する

ここで私の関心は、 「どんなプロンプトを書けばいい文章が出るか」から、 「AIが仕事をしやすい環境をどう作るか」 へ移りました。

たとえば現在のScene Planでは、指示を3種類に分けています。

  • 固定アンカー ―― 出来事の順序、日付、小道具、人物関係など、必ず守るもの
  • 表現メモ ―― 作者の仮案。文体やキャラクターに合わなければ変更してよいもの
  • 固定セリフ ―― 必要な場合だけ一字一句を固定するもの

すべてを固定してしまえば、AIの創造性はなくなる。 全部自由にすれば、物語が壊れる。

何を固定し、何をAIに考えさせるか。 その境界を設計する必要があります。

私は、このあたりから自分がやっていることを Harness Engineering と捉えると、とても分かりやすいと感じるようになりました。

8.Harness Engineeringも、AI業界で前面に出てきた

2026年2月11日、OpenAIは 「ハーネスエンジニアリング:エージェントファーストの世界におけるCodexの活用」 を公開しました。

そこで紹介されているのはソフトウェア開発の事例ですが、 AIエージェントがコードを書く環境では、人間の役割が、 すべてのコードを直接書くことから、 環境を設計し、意図を明確にし、フィードバックループを構築すること へ変わっていく、という考え方が示されています。

OpenAIの記事では、 「Humans steer. Agents execute.」 という簡潔な表現も使われています。

モデルだけを見るのではない。 モデルに与えるツール、ドキュメント、ルール、ガードレール、評価方法、レビュー。 それらを含めた環境を整える。

もちろん、OpenAIが説明しているのはソフトウェア開発で、 私がやっているのは小説です。 規模も目的も違います。

でも、私の小説にもPremise、Characters、Timeline、Glossary、Scene Plan、 文体の憲法、禁止事項、設定ファイルの優先順位があります。 そして、それを読んで本文を書くAIがいます。

モデル単体ではなく、モデルの周囲にある仕組みを設計する。 ここがHarnessなのだと考えると、私の試行錯誤を説明しやすくなります。

9.次に「チェックするAI」を作った

それでも、人間にはまだ仕事が残っています。 初稿のチェックです。

小説では、「文章が自然か」だけでは不十分です。

たとえば主人公のルミには、 「口が先に動く」「体が先に動く」「負けず嫌い」 「かっこよく見せたいのに、中身が追いつかない」 という特徴があります。

そこでCharacter Checkには、

  • この場面で主人公が自分から動いているか
  • 欲望があるか
  • 弱点が出ているか
  • 欲望と弱点のギャップが見えているか
  • 読者が次を読みたくなるものが残っているか
  • 前の問いの主人公と比べて、どこか1つ変化しているか

といった確認項目を置いています。

ここで、「このチェックもAIにやってもらえばいいのではないか」と思いました。

そこで役割の違うチェックエージェントを作りました。

  • 創作性を見るエージェント
  • Timelineや物語の整合性を見るエージェント
  • キャラクターが生きているかを見るエージェント

それぞれが別の価値基準で原稿を読み、スコアリングする。 一定の基準に達しなければ、修正する。

もはやこれは単なる文章校正ではありません。 物語が機能しているかをAIに検査させている、という感覚に近くなりました。

10.主人公本人にも原稿を読ませる

さらに、少し変わったことも始めました。 主人公のルミ自身を、独立したAIの役割として作ったのです。

年齢、性格、欲望、弱点、過去、人間関係。 そうした情報を持たせて、原稿を読ませます。

そして、 「あなたは、本当にここでこんなことを言いますか」 「この行動をしますか」 と聞く。

もちろん、本物のルミが存在しているわけではありません。

でも、 作者が読む。 一般的な文章評価AIが読む。 物語の主人公として読む。 という複数の視点を持つことができます。

1体の万能なAIに、全部やらせる必要はない。

書くAI。 時系列を見るAI。 創作を見るAI。 主人公として読むAI。

役割を分けることができます。

11.AI業界でも「作るAI」と「評価するAI」を分け始めている

この点も、最近のAI開発の流れと重なっていました。

Anthropicは2026年3月24日、 「Harness design for long-running application development」 を公開しました。

そこでは、Planner、Generator、Evaluatorを分離した 3エージェント構成が紹介されています。

特に興味深いのは、Generator自身の自己評価だけに頼るのではなく、 作る役と評価する役を分けるという考え方です。

Plannerが計画する

Generatorが作る

Evaluatorが基準に沿って評価する

問題点をGeneratorへ戻す

Generatorが修正する

Anthropicの事例はソフトウェア開発で、 私は小説の品質を上げようとしています。 対象はまったく違います。

それでも、 作る役と評価する役を分け、評価結果を次の生成へ戻す という構造はよく似ています。

12.Loop Engineering――完璧な「1回」を目指さなくなった

ここまで来ると、私自身の考え方も変わりました。

最初のころは、 1回のプロンプトで、なるべく100点に近い文章を出したい と思っていました。

でも今は違います。

Generate(生成)

Evaluate(評価)

Revise(修正)

Evaluate(再評価)

2026年6月16日、LangChainは 「The Art of Loop Engineering」 を公開しています。

そこでは、Agentの基本的なLoopに加えて、 出力をRubricで評価して再試行するVerification Loop、 Event-driven Loop、 さらにHarnessそのものを改善するLoopなど、 複数の反復構造が整理されています。

Loop Engineeringという言葉は、Prompt Engineeringほど長く定着した用語ではなく、 比較的新しい表現です。 しかし、私が今やっていることを説明するには、とても分かりやすい。

1回目が80点でもいい。 評価する。直す。もう一度見る。 必要なら、もう1回直す。

大切なのは、最初の1回の出力品質だけではなく、 Loopを通った最終的な成果物の品質です。

人間も小説を1発で完成させるわけではありません。 初稿を書き、読み返し、編集し、校正します。 AIでも同じことができます。

そして、できれば人間が毎回コピー&ペーストしてLoopを回すのではなく、 LoopそのものをHarnessの中へ入れる。 そこが次の段階だと思っています。

13.設定ファイルは「物語の記憶装置」になった

このやり方を続けていると、設定ファイルの意味も変わりました。

最初は、「AIに忘れられないように設定を書いておく」程度に考えていました。 今は違います。

  • Timeline ―― 物語が現在いつなのかを保持する
  • Glossary ―― 日付、数値、呼称、小道具、人物関係の現在状態を保持する
  • Scene Plan ―― 未来を全部固定せず、絶対に守るアンカーを保持する

そして本文が確定すれば、古い計画よりも、 実際に出来上がった確定稿を正とする。

作品を書きながら、Contextそのものも更新されていく。

たとえば現在の第5章では、 主人公2人の間で続いていたLINEの「パンの写真+絵」の往復が、 ある回で止まり、数話後に再開することまで管理しています。

その一方で、「2人は傷ついている」などと感情を説明することは禁止しています。 LINEが止まったという「事実」で、2人の距離を見せる設計です。

100話近い作品になれば、こうした情報を人間の頭だけで管理するのはかなり大変です。 しかし構造化してAIと共有すれば、 作品の記憶を、人間とAIで共有できる。

ここにもContext Engineeringの大きな意味があると思っています。

14.そしてChatGPTにも「Chatの次」が来た

ここまでの環境は、しばらくClaudeのCoworkを中心に作っていました。

ところが2026年7月9日、OpenAIは ChatGPT Work を発表しました。

OpenAIはWorkを、より長く複雑なタスクを扱うエージェントとして位置づけています。 情報の調査・分析、接続されたアプリやファイルをまたいだ作業、 ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーション、レポートなどの 完成成果物を作る用途が想定されています。

OpenAIの ChatGPT WorkとCodexの公式説明 でも、Chatは日常的な質問や会話向け、 Workは長い複数ステップの作業や完成成果物向け、と整理されています。

これは、私にとって大きな変化でした。

それまで「このやり方はClaudeだからできる」と思っていた部分を、 ChatGPT側でも同じ方向へ持っていけるようになってきたからです。

  • 同じ設定ファイルを使う
  • 同じようなHarnessを作る
  • 同じ評価Loopを回す

そうすると初めて、 環境の違いではなく、モデルそのものの出力の違い を見やすくなります。

ChatGPTとClaudeのどちらが創作に向いているのか。 日本語はどう違うのか。 どちらが人物を面白く動かすのか。

それは、これからさらに見ていけると思っています。

15.ただ、モデル比較が目的ではない

ClaudeとChatGPTのどちらが優秀なのか。 もちろん興味はあります。

でも、この1年間で私が得た一番大きなものは、そこではありません。

自分が創作を続けられる土台ができたこと。
そして、以前より創作そのものを楽しめるようになったこと。

こちらのほうが大きい。

プロンプトを書くことが目的ではありません。 コピー&ペーストをすることが目的でもない。 Timelineを更新することが目的でもない。

私が考えたいのは、 「この人物は次にどう動くのか」 「この2人はどう変わるのか」 「この出来事を置いたら、何が起こるのか」 ということです。

設定ファイルも、エージェントも、HarnessもLoopも、 人間が本来考えたいことへ戻るための仕組みなのだと思っています。

16.Prompt → Context → Harness → Loopは「世代交代」ではない

ここで1つ、誤解しないようにしておきたいことがあります。

私は、「Prompt Engineeringは古い。これからはContext Engineeringだ。 その次はHarness Engineering、その次はLoop Engineeringだ」 と言いたいわけではありません。

4つは置き換わっているのではなく、重なっています。

  • Prompt Engineering
    AIへの「1回の指示」を設計する
  • Context Engineering
    AIが「何を知った状態で考えるか」を設計する
  • Harness Engineering
    AIに「どんな環境、ファイル、ツール、役割、ルールを与えて働かせるか」を設計する
  • Loop Engineering
    「生成、評価、修正をどう循環させ、最終品質を上げるか」を設計する

Promptは今でも必要です。 そのPromptもContextの一部になります。 ContextはHarnessの中で使われます。 Harnessの中でAgentが動き、その内外でLoopが回ります。

AIに対して人間が設計する範囲が、少しずつ外側へ広がった。

という見方が、私には一番しっくりきます。

AnthropicがContext Engineeringを論じ、 OpenAIがHarness Engineeringを論じ、 AnthropicがGeneratorとEvaluatorを分離したHarnessを実験し、 LangChainがLoop Engineeringを論じる。

2025年から2026年にかけて、 AI開発の関心が「良いモデル+良いプロンプト」だけではなく、 Agentが働く環境や評価の仕組みまで含めたシステム設計へ広がっている ことが見えてきています。

17.これは、小説だけの話ではないと思う

最近、この仕組みは小説だけのものではないと思うようになりました。

たとえば、

  • マニュアルを書く
  • 教材を作る
  • レポートを書く
  • 企画書を作る
  • Web記事を書く

こうした仕事にも、

情報を集める

構成を決める

初稿を作る

評価する

修正する

という工程があります。

だったら、 調べるAI、構成を考えるAI、文章を書くAI、 事実関係を見るAI、読み手の立場から評価するAI、 という役割分担もできます。

そして、その周囲にContext、Harness、Loopを作る。

おそらく画像でも、動画でも、音楽でも、 具体的なツールは違っても、 考え方には共通するところがあるのではないかと思います。

18.もっと先へ進む道も見えている

ここから、さらに環境を作り込むこともできます。

  • APIを使う
  • 複数のモデルをプログラムでつなぐ
  • 自分専用のオーケストレーションを作る
  • ローカルPCや自分のサーバー上で、小さな言語モデルを動かす
  • モデルを役割ごとに使い分ける
  • 必要な品質を、もっと低いコストで作れる環境を構築する

そういう方向も見えてきました。

ただ、今の私の目的は小説を書くことです。 趣味の延長で創作を楽しむというレベルなら、 必ずしもそこまで大がかりな仕組みを作る必要はないとも思っています。

今あるサービスと1台のパソコンだけでも、かなり高度なところまで来られる。 むしろ、そこが今とても面白いところです。

19.私は、AIを理解するための「現場」が欲しかった

そもそも、なぜ1年もこんなことをしてきたのか。

私はAIについて外から評論したかったわけではありません。 AIを使う当事者になりたかった。 問題が起きる「現場」を、自分で持ちたかったのです。

そして実際にやってみると、

問題が起きる

AIで解決する

次の問題が出てくる

また仕組みを変える

その繰り返しでした。

Chatから始まり、Projectを使い、設定ファイルを作り、 ClaudeとChatGPTを使い分け、Coworkでファイル中心の環境を作り、 評価エージェントを置き、GeneratorとEvaluatorを分け、 Loopを回すようになった。

そして現在は、ChatGPT Workでも同じ方向の環境を作れるようになってきました。

振り返ってみれば、 Prompt → Context → Harness → Loop という形になっていました。

でも、最初からこの4つの言葉を知っていて、その通りに作ったわけではありません。

小説を書きながら、 面倒だ。うまくいかない。もっと楽にしたい。 設定が壊れた。人物が違うことを言った。時系列が合わない。 毎回同じことを直すのが嫌だ。

そういう目の前の問題を1つずつ解決してきただけです。

私にとってこれらの言葉は単なるAI用語ではありません。 なぜ、その技術が必要になるのかを、自分の現場で経験した結果についた名前なのです。

20.1年かけて作っていたのは、「小説」だけではなかった

今回、改めて自分の設定ファイルを並べてみて思いました。

私は1年間、小説を書いていました。 でも同時に、 AIと一緒に小説を書くための環境も作っていた。

  • 作品の目的を定義するファイルがある
  • 人物設定がある
  • Timelineがある
  • Glossaryがある
  • Scene Planがある
  • 文体の憲法がある
  • 禁止事項がある
  • 設定が衝突したときの優先順位がある
  • Writerがいる
  • 複数のEvaluatorがいる
  • 必要なら修正し、また評価する

これはもう、単なる「ChatGPTとの会話」ではありません。

小さいけれど、自分専用のAI創作環境になっています。

そして、それを作ったことで、ようやく私はAIを操作することから少し離れて、 物語そのものを考える場所へ戻れるようになった。

そこが、今の私にとって一番大きな到達点です。

21.「AIとチャットする」から、「AIと働く環境をつくる」へ

ChatGPTという名前が象徴するように、 生成AIとの最初の接点は「Chat」でした。

人間が質問する。 AIが答える。 もちろん、それは今でも便利です。

でも、2026年の今、AIは少し違う段階に入り始めているように感じます。

質問に答えてもらう。 文章を書いてもらう。 という使い方から、

  • AIにファイルを読ませる
  • ツールを使わせる
  • 複数の役割を持たせる
  • 仕事を引き継がせる
  • 評価させる
  • 修正させる

という方向へ広がっています。

OpenAIはChatGPT Workを長い複数ステップの作業や完成成果物の作成向けのAgentとして展開し、 AnthropicもContext管理や長時間動くAgent Harnessの設計を公開しています。

「AIとチャットする時代」から、 「AIが働く環境を設計する時代」へ。

少し大げさな言い方かもしれませんが、 そんな変化が始まっているのかもしれません。

私自身も、この1年間で、 「どういうプロンプトを書こう」 と考えるところから、

  • このAIには、何を知っていてもらおう
  • この役割には、何を評価してもらおう
  • どのファイルを正本にしよう
  • どこまでAIに任せ、どこを自分が決めよう

と考えるようになりました。

AIの性能が上がったことも重要です。 でも、それ以上に、 AIとの関係そのものが変わった。 そんな気がしています。

ちなみに、この記事自体も同じ方法で作りました。

人間である私が1年間の体験を話す

AIと一緒に構成する

小説の実際の設定ファイルをContextとして読み込ませる

AI業界の最近の動きを確認する

文章を組み直す

最後は人間である私が判断する

つまりこの記事も、 Promptから始まり、Contextを与え、Harnessを使い、Loopを回して仕上げた文章 ということになります。

私はAIに小説を書かせたかったわけではなかった。 AIというものを、もっと深く理解したかった。 そのために、自分自身の「現場」が欲しかった。

小説を書くという小さな現場から始まった1年間の試行錯誤は、 ようやく、 「AIと一緒に働く環境をどう作るか」 というところまで来ました。

たぶん、ここがゴールではありません。

Prompt → Context → Harness → Loop

という流れを通って、ひとつの土台はできた。 今は、そう感じています。

2025-12-18 20:44:00

年末、標準化の先にあるもの

年末が近づくにつれ、空気が少し張りつめてきた。
この年末年始に、多くの基幹業務システムをガバメントクラウドへと移行する。長く準備してきたので、何事も起きずに済むと信じてはいるが、油断は禁物だ。

正直なところ、落ち着かない。
だがそれ以上に、これまで積み上げてきた現場の判断と、そこから伝わってくる手応えに、安堵も感じている。

自治体20業務システム標準化をめぐる議論は、ここにきて厳しさを増してきた。
国が描いた工程表どおりに進まない自治体が明らかになり、「計画そのものに無理があったのではないか」という声も大きくなった。
想定以上にコストが上がった、現場が疲弊している、従来のやり方のほうが良かった——そうした指摘には、事実も含まれているだろう。
ただ、その議論の多くが、どうしても「今、この瞬間」だけを切り取っているようにも感じられる。

標準化は、本来もっと長い時間軸で捉えるべきものではないだろうか。

これまで地方自治体は、それぞれが独自にシステムをつくり、運用し、改修してきた。
自治体ごとの工夫や創意は確かにあったが、その一方で、データをつなぐために多くの困難があり、事務事業は同じなのに自治体が違えば仕組みが通用しない、という状態が当たり前になっていた。

標準化は、その前提を一度リセットする試みだ。
業務とデータを揃えることで、部門連携が「努力」ではなく「構造」として可能になる。
自治体同士、さらには国や公共機関とのデータ連携も、例外ではなく前提として考えられるようになる。

この変化は、大きい。

あたりまえのことだが、ネットワークは繋がってこそ真価を発揮する。
繋がることを前提にしたシステム構築は、これまでの延長線上では決して到達できなかった地点への、最初の一歩になる。

もちろん、痛みを伴わない改革など存在しない。
慣れ親しんだ仕組みを手放す不安、業務が一時的に複雑になる戸惑い、説明しきれない違和感。
それらを抱えながら、それでも現場は前に進もうとしている。

だからこそ、標準化を「失敗か成功か」「高いか安いか」だけで語ってしまうことに、どこか違和感が残る。
これはゴールではない。
「これからがスタートなんです」という担当者の言葉が、心に残っている。

標準化は、日本の行政DXにとってのゴールではなく、始まりだ。
その始まりに立ち会っていることの重さと意味を、静かに噛みしめながら、この年末を迎えている。

2025-12-13 18:38:00

13歳の娘と学ぶ お金持ちになるための100問

 

ChatGPT Image 2025年12月14日 15_45_23.png
――はじめまして。わたし、ルミ。

「お金持ちになりたい」って言った13歳です。あれから、お父さんとAIのGraceといっしょに進めているのが、この連載「親子で考える!お金持ちになる100の問い」。
全体は10章に分かれていて、家族・学びから、お金の意味、習慣、人間関係、感情、時間、仕事、投資、そして13歳には少し早いけれど、“人生そのもの”まで。
100問って、なかなか大変。短い問いがずらっと並んでいます。でも、目次だけでもワクワクするでしょ。

「勉強って、何のためにする?」みたいな超シンプルな問いからスタートします。
難しい理屈より、まず“自分の言葉”で言ってみる。そしてやってみることが大切。
Graceに教えてもらって、だんだん、わかってきたところです。

 

<目次> 

第1章 教育・家族・子ども

問い#1:勉強って、何のためにする?

問い#2:勉強以外で学んだ大事なことは何だろう?

問い#3:親から教わった大切なことは?

問い#4:一番話しやすい家族って、誰?

問い#5:好きな教科とその理由は?

問い#6:家族で話すと心があたたかくなる話題は?

問い#7:誰かに教えてもらいたいことはある?

問い#8:家でお金の話、オープンにできる?

問い#9:家族で大切にしているルールはある?

問い#10:家族と一緒にしたい挑戦は何? 

第2章 お金の哲学・意味・使い方

問い#11:お金と自由の関係についてどう思う?

問い#12:お金で買えないものって、何がある?

問い#13:お金とは私にとってどんな存在だろうか?

問い#14:欲しいものと必要なものの違いは何?

問い#15:お金が十分にあったら、どんな使い方をしたい?

問い#16:お金がないとき、何を一番我慢する?

問い#17:誰かのために使うお金と、自分のために使うお金、どちらが幸せ?

問い#18:お金があるとき、どんな気持ちになる?

問い#19:お金がすべてじゃないとしたら、何を大事にする?

問い#20:豊かさって、どんな状態のことを言うと思う? 

第3章 思考・マインドセット

問い#21:「どうせ無理」と思ったとき、どう切り替えてる?

問い#22:自分の考えは、どこから影響を受けていると思う?

問い#23:誰かの言葉で勇気をもらった経験はある?

問い#24:失敗したとき、自分をどう励ます?

問い#25:できない理由より、できる方法を考えている?

問い#26:目標を立てるとき、大切にしていることは何?

問い#27:今の自分の考え方、去年とどう違う?

問い#28:ポジティブに考えるために心がけていることは?

問い#29:頭でわかっているのに、行動できないことは何?

問い#30:夢を叶えるために、どんな考えが役立つ? 

第4章 行動と習慣

問い#31:1日でいちばん集中できる時間帯は?

問い#32:自分を甘やかす日って必要だと思う?

問い#33:疲れていてもやるべきことをやるコツは何?

問い#34:よくやる習慣で、やめたいことはある?

問い#35:今すぐ始めたいと思ってることは何?

問い#36:時間を無駄にしてしまう原因は何?

問い#37:よい習慣を続けるために工夫していることは?

問い#38:毎朝、起きて最初にすることは何?

問い#39:いつも先延ばしにしてしまうことは?

問い#40:毎日続けていることは何? 

第5章 人間関係・信頼

問い#41:相手の良いところを見つける習慣はある?

問い#42:本音で話せる相手は誰?

問い#43:困っている人がいたら、どう関わる?

問い#44:「ありがとう」はどれくらい伝えてる?

問い#45:信頼ってどうやって築けると思う?

問い#46:自分が信頼されていると感じた瞬間は?

問い#47:裏切られた経験、それをどう乗り越えた?

問い#48:人間関係で大切にしていることは何?

問い#49:友だちと、親友になったきっかけは?

問い#50:誰かの信頼を失わないために心がけていることは?  

第6章 感情・精神性・スピリチュアリティ

問い#51:喜びを人と分かち合うことの意味は?

問い#52:落ち込んだとき、自分をどう励ます?

問い#53:一番リラックスできる時間はいつ?

問い#54:毎日、小さな感動を見つけている?

問い#55:祈りや願い事をするとき、どんな気持ち?

問い#56:心が落ち着く場所はどこ?

問い#57:感謝していることを3つあげるとしたら?

問い#58:「今ここ」に意識を向ける時間を持っているか?

問い#59:怒った時、どうやって心を整えてる?

問い#60:涙が出たのは、どんな感動のとき? 

第7章 時間・自由・ライフスタイル

問い#61:一番大切にしたい週末の過ごし方は?

問い#62:今の生活に自由を感じている?

問い#63:時間を大切にするってどういうこと?

問い#64:時間の使い方で改善したいことは?

問い#65:自由な1日があれば何をしたい?

問い#66:1日1時間あれば何を学びたい?

問い#67:忙しい中でも自分の時間を作るコツは?

問い#68:スケジュールを立てるのは好き?苦手?

問い#69:自分らしく過ごせたと思える日はどんな日?

問い#70:この1週間で減らしたい時間の使い方は? 

第8章 時間・自由・ライフスタイル

問い#71:値段より価値が大事ってどういう意味?

問い#72:サービスと商品、どちらを提供したい?

問い#73:お店を開くなら、どんな商品を売りたい?

問い#74:働くってどういうこと?

問い#75:大人になったら、どんな働き方をしたい?

問い#76:やってみたいビジネスのアイデアはある?

問い#77:誰かの悩みを解決するなら、何ができる?

問い#78:自分の得意なことを活かして収入にするには?

問い#79:ありがとうと言われた仕事の経験は?

問い#80:誰かの役に立つことで、どんな喜びがある? 

第9章 投資・金融リテラシー

問い#81:誰にお金のことを相談する?

問い#82:お金を「守る」力と「増やす」力、どっちが得意?

問い#83:1000円を使わずに増やす方法はある?

問い#84:「将来のための貯金」はどんな形がいい?

問い#85:お金の知識は学校で学べると思う?

問い#86:おこづかいをどう使えば価値がふえる?

問い#87:お金を働かせるってどういうこと?

問い#88:投資で失敗したら、どう立て直す?

問い#89:株や投資信託って何をするもの?

問い#90:なぜ金融教育が必要だと思う? 

第10章 死・遺産・人生の目的

問い#91:一度きりの人生として大切にしていることは?

問い#92:死んだあとに、どんなふうに記憶されたい?

問い#93:人に残したい言葉や考えはある?

問い#94:今、大切な人に伝えたいことは?

問い#95:いまの自分が、未来の自分に誇れる生き方か?

問い#96:何歳までかに成し遂げたい夢はある?

問い#97:誰かに感謝を伝えずに来てしまっている?

問い#98:人生でやり遂げたいことは何?

問い#99:人生を振り返ったとき、何に感謝したい?

問い#100:「よく生きた」と感じられる生き方とは何か? 

2025-11-16 12:00:00

#100:「よく生きた」と感じられる生き方とは何か?

#100:「よく生きた」と感じられる生き方とは何か?

 

【Grace の問い(親子で10分)】

1)今日、自分に正直に選べたことを1行書く。

2)誰かとの心の通い合いを1件記録する。

3)If-Then習慣を決める(迷った“ら”本音に従う)。

 

【落とし穴(3つ)】

1)「大きな成果」がないと価値がないと思う。

2)人との比較で自分を小さく見積もる。

3)未来の完璧を待ちすぎて今をおろそかにする。

 

【確認用チェックリスト(3項目)】

□ 誠実メモを1行書いた。

□ 心の通い合いを1件記録した。

□ If-Then習慣を決めた。

 

【今日の振り返り(見本・100字)】

「よく生きた」とは成果より本音と心の積み重ね。誠実メモを1行、心の通い合いを記録し、If-Thenで本音を選ぶ。比べず、完璧を求めず。深呼吸三回。やさしい一日を未来への誇りとして残す。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ...