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2025-08-08 14:14:00

#1:勉強って何のためにすると思う?

#1:勉強って何のためにすると思う?

ナナがリードを鼻先でつついた。
今日はいつも通り散歩へ出るが、ルミはリードを握りながら、どこかそわそわしていた。期末テストが一週間後に迫っているのだ。
外は夕暮れ。アスファルトには昼の熱がまだこもり、街路樹の影が長く伸びている。歩くたびにルミの頭の中では、「勉強しなきゃ」という小さな声が響いていた。

公園に着くと、ルミは遠くに友だちの莉子を見つけた。
「お父さん、ナナお願い!」
そう言って父親にリードを預けると、ルミはぱっと表情を明るくして駆け出した。一方の莉子は、夕空をのんびりと見上げている。ルミが近づくと、ようやく気づいて笑った。
「莉子、今日このあと勉強しなきゃで……」
ルミが言いかけると、
「また?  テストなんて、なんとかなるよ〜」
莉子は悪気なく笑った。

 

(……なんとか、なる?)

 

ルミは胸の奥がチクリとした。莉子の家は裕福で、ピアノもタブレットも最新の家電もそろっている。莉子のお父さんは会社を経営し、家にはお金の心配がない。“勉強しなくてもなんとかなる世界”を、莉子は本当に生きている。

 

でも――。

 

「なんで、なんとかなるの?」
ルミは聞かずにはいられなかった。莉子は肩をすくめる。
「だって、お父さんが“進学とかは好きにしなさい。自分の道を見つければいい”って言うし。お金の心配もしなくていいって」
その言葉は、ルミにはまぶしく、そして少しだけ苦かった。

「勉強って……しなくてもいいの? しなきゃいけないんじゃないの?」
ルミは自分にしか聞こえない声でつぶやいた。
莉子は立ち止まり、ルミの顔をのぞき込む。
「ルミはすごいよ、ほんと。いつも勉強してて。でも……私は、テストがなんで大事なのか分かんない」
その瞬間、ルミの胸の奥に、ぽっと小さな火花が灯った。

(私……なんでこんなに勉強のことで不安になるんだろう?
 勉強すると、何が増えるんだろう?
 勉強しないと、何が減るんだろう?)

まだ言葉にならない“問い”が、ルミの中で静かに形をつくり始めていた。公園を一周するあいだ、ルミは黙ってナナの背を撫で、私は歩幅を合わせた。

家に戻る頃には、ナナは満足したように尻尾を振り、ルミも少しだけ表情が落ち着いていた。玄関で靴を脱ぐと、ひんやりした室内の空気が頬を冷やす。
「なんか……さっきの話、ちょっと気になる」
ルミはぽつりと言った。
「そうか」
父親はうなずき、ルミが自分のペースで考えられるよう、何も言わなかった。

リビングのテーブルには、朝のうちに置いておいたノートとペンが並んでいる。
照明が木目をやわらかく照らし、ナナはソファの足元で丸くなった。ルミは深呼吸して、スマホのスピーカーをオンにした。
「Grace、今日……ひとつ、問いを見つけたよ」
Grace: いいですね。散歩のあいだに、何か心に引っかかったことがありましたか? それが、問いの芽になります。
「うん……なんで私は“勉強しなきゃ”って思うんだろう? 勉強すると、何が増えるんだろう? 勉強しないと……何が減るんだろう?」
ルミは散歩中、莉子が言った言葉を思い返していた。

──『テストなんて、なんとかなるよ〜』
──『私は、テストがなんで大事なのか分かんない』

その「なんとかなる」という軽さと、「分かんない」という正直さが、ルミの胸にずっと残っていた。
Graceは、そんなルミの揺れをそっと受け止めるように促した。
Grace: その中で、一番“今のルミさんが知りたいこと”はどれですか?
ルミはペンを握り直し、静かにノートを開いた。リビングの照明がテーブルの木目をやわらかく照らし、麦茶のグラスの外側にはうっすら水滴がにじむ。ナナはソファの足もとで丸まっていた。
ルミは息を整え、ぽつりと言った。
「……勉強って、何のためにするんだろう」
Graceは静かに問い返す。
Grace: 勉強って、テストの点のため? 将来いい会社に入るため? それとも──もっと違う理由があるのでしょうか。
ルミは少し考えてから口を開いた。
ルミ: ……これまでは“いい大学に入るため”って思ってた。いい大学に入れば、いい会社に入れるし。
Graceが続ける。
Grace: では、いい会社に入ると、お金持ちになれますか?
その問いに、ソファにもたれていたルミの肩がすっと起きた。莉子の「なんとかなる」という言葉が重なる。
ルミは、ふと気づいたように言った。
ルミ: ……違う。
“いい会社に入ること”と“お金持ちになること”は別だ。
ルミ:たぶん私、勉強の意味が分からなくなったんだ。だって莉子は勉強しなくても“なんとかなる”って言ったし……。お金持ちになることと勉強って、関係ない気がして。

父親が口を挟んだ。
父親: それはどうかな。確かに“いい会社”と“お金持ち”は同じじゃないけど、勉強しなくて“お金持ちになる”のは難しいんじゃないか?
Graceが静かに言葉を重ねる。
Grace: 約束です。お父さん、ルミさんが見つけた答えを否定しないでください。では──ルミさん、続けてください。
ルミは自分の気持ちを探るように語った。
ルミ: ……ずっと“テストがあるから勉強するもの”って思ってた。でもテストのための勉強って、なんか……違う気もして。
Graceはうなずいた。
Grace: テストは“今の理解度”を測るためのものです。そして勉強の本当の目的は、“未来を選ぶ力”を育てることなんです。
父親がつぶやいた。
父親: なるほど。“知は力なり”ってことか。
ルミが振り向く。
ルミ: 何それ?
父親: 知識は人の力になって、社会を新しくする力にもなるってことだよ。
Graceが説明をつなぐ。
Grace: そうです。価値を見抜ける人は、価値を生み出す人になれます。お金は、価値のあるところに集まるのです。
ルミ: ……ちょっと難しい。
Graceは言葉を選び、少しやわらかく話した。
Grace: 勉強は“見る目”を育てます。見えなかったチャンスが、見えるようになるんです。
ルミ: 見る目を養う……か。
父親: つまり、他の人が見過ごす価値に、先に気づけるってことだね。
Graceは静かにうなずいた。
Grace: 勉強は、あなたの可能性を広げるものでもあります。
ルミは、ようやく心の中のもやもやが言葉になるのを感じた。
ルミ: ……分かった。未来の可能性を広げるためなら……私、ちょっとやる気出るかも。

 

【Grace の問い(親子で10分)】

1)あなたにとって「勉強」の目的を、ひと言で書いてください。

2)最近“勉強して得た知識”で、実際に得した/助かった体験を1つ挙げてください。

3)その知識を使って、明日できる小さな行動を1つ決めてください。

 

【落とし穴(3つ)】

1)目的が「点数」「進学」だけで止まる。

2)抽象論だけで、身近な例に落とさない。

3)親が先に“正解”を言ってしまい、子の言葉が育たない。

 

【確認用チェックリスト(3項目)】

□ 目的が自分の言葉で1行に書けた。

□ 具体例が“昨日〜1週間以内”の出来事で示せた。

□ 明日の行動が、時間・場所・方法まで決まっている。

 

【今日の振り返り(見本・100字)】

勉強は点のためではなく、未来を選ぶ力を育てる営み。価値を見抜き、生み出す目を養うほど、選択肢は増える。明日は「家の中の不便」を3つメモし、1つ改善策を試す。

問い#1:勉強って、何のためにする?

問い#2:勉強以外で学んだ大事なことは何だろう?

問い#3:親から教わった大切なことは?

問い#4:一番話しやすい家族って、誰?

問い#5:好きな教科とその理由は?

問い#6:家族で話すと心があたたかくなる話題は?

問い#7:誰かに教えてもらいたいことはある?

問い#8:家でお金の話、オープンにできる?

問い#9:家族で大切にしているルールはある?

問い#10:家族と一緒にしたい挑戦は何?