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2025-08-09 14:25:00

#2:勉強以外で学んだ大事なことは何?

#2:勉強以外で学んだ大事なことは何?

 チャイムが鳴り終わると、むわっとした夏の空気が廊下に流れ込んできた。外はまだ明るく、校庭のアスファルトは熱を手放さないままだ。
ルミと莉子は汗をぬぐいながら並んで帰った。並木道の上からは、蝉の声が絶え間なく響いている。しばらく歩いたあと、莉子がぽつりと言う。
「昨日も言われた。“好きなことをやりなさい”って」
「お父さんに?」とルミ。
「うん。“好きなこと見つければ人生うまくいく”って。でもさ……どうやって見つけるの? みんな簡単に“好き”とか“得意”とか言うけど、わたしにはピンとこないの」
莉子の声は少し震えていた。その揺れは、夏の空気のせいだけではなかった。
「わたし、何が好きなのか分かんないんだよ。ルミみたいに勉強も好きじゃないし……」
ルミは足を止めた。湿った風がふたりの髪を揺らした。
「え? 勉強って……わたし、“好き”だからやってるわけじゃないよ。なんか、不安だからやるって感じ」
「不安?」
莉子が顔を上げる。
「うん。テストが近いとそわそわするし、やらないと将来どうなるんだろうって思うから」
「……そっか」莉子はうつむく。
“好きじゃないのに続けてる”という事実が、むしろよけいに自分を追い詰めるように感じたのかもしれない。 

横断歩道の信号が青に変わり、ふたりはゆっくりと歩き出した。ルミはふと思いつき、言葉を探すように話し始めた。
「……ねぇ、好きなことってさ、ひとりで部屋の中でうーんって考えても出てこないんじゃないかな。誰かと話してるうちに、“あ、これかも”って気づくものなんじゃない?」
莉子は驚いたように目を瞬いた。
「人と話して……?」
「この間だってそうだよ。莉子が“テストがなんで大事なのか分かんない”って言ったとき、わたし、自分でも気づかなかったモヤモヤに気づいたの。“じゃあ勉強って何のため?”って」 

莉子とルミはしばらく黙って歩いた。蝉の声だけが、二人の影を追いかけるように響く。
「……わたしにも、そういうこと、あるのかな」
莉子の声は弱かった。不安はまだ、ぜんぜん晴れていない。
「あると思うよ」
ルミは即答したが、その優しさが届いたかどうかは分からなかった。
莉子は小さく笑おうとしたが、うまくいかなかった。
「……見つかるのかな。ほんとに。みんなは“好き”って言えるのに、わたしだけ分からないの……」
その言葉は、まるで胸の奥の重たい鍵を、ぎゅっと握りしめたまま話しているような声だった。
ルミは隣で歩きながら、莉子の不安が“ひとつの返事で晴れるようなものじゃない”と悟った。夏の空気みたいに重く、でも確かにそこにあるものなのだ。それでも、ルミの中には新しい気づきが生まれつつあった。 

(人って……話してるだけで、気持ちがちょっと動いたり、
 相手のひと言で、自分でも気づかなかった気持ちが見えてきたりするんだ。
 なんか……こういうのも“学ぶ”っていうのかな。)

 その思いは、まだ形にはならないけれど、胸の奥でゆっくり揺れ始めていた。 

夏の風に吹かれながら家に帰り、ルミはシャワーを浴びて汗を流すと、リビングのテーブルでノートを開いた。さっきの莉子との会話が、胸のどこかでずっと揺れている。スマホのスピーカーをオンにすると、Graceの落ち着いた声が流れた。
Grace: ルミさん、帰り道で感じたこと、教えてもらえますか?
ルミはノートに目を落としながら、小さく息を吐いた。
ルミ: 莉子がね、「好きなことが分からない」って言ってて……わたし、どう返していいか分からなくて。でも話してるうちに、“人と話すことで見えるものもあるんだ”って思ったの。
Graceはやわらかく肯定する。
Grace: すばらしい気づきです。教科書の勉強は知識を得ること、そして得た知識で未来の可能性を広げることでしたね。
ルミ: うん、お父さんが言ってたやつ。「知は力なり」って。
Grace: では――勉強以外で、何か得た“知識”はありますか?
ルミ: えっ……“勉強以外”? うーん、そんなふうに考えたことなかったかも。
Graceはヒントを送る。
Grace: ヒントです。“人との関係の中でしか学べない知識”がありますよ。
ルミ: 知識? 人との関係から?
Grace: ええ。思いやり、信頼、勇気、許すこと。数字や英単語のように暗記はできないけれど、経験の中で育つ“心の知恵”です。
ルミは、ふと記憶をたどるように表情を変えた。
ルミ: ……あ、あるかも。運動会の応援団でね、莉子と一緒に副団長になったの。あんまり話したことない子だったから、最初はちょっと苦手で……まじめすぎて話しづらいと思ってた。
父親: そんなふうに感じていたんだね。
ルミ: うん。でも、わたしが振り付けミスして落ち込んでたとき、莉子が「ルミが一生懸命なの、ちゃんと伝わってるよ」って言ってくれたの。それがすごくうれしくて……一気に距離が縮まったんだ。
ルミはそのときの夕陽と汗の匂いまで思い出したように言葉を続けた。
ルミ: そこから、苦手って思ってた人とも向き合えるようになった。体育祭が終わる頃には、ふざけ合うくらい仲良くなってたし。人って……見た目とか最初の印象だけじゃ分からないんだなって。
Graceは静かに言葉を添える。
Grace: それが“学び”です。人との関わりの中で育った心の知恵が、ルミさんの中に確かに芽生えていますね。
ルミは小さくうなずいた。
ルミ: もしあのとき体育祭がなかったら、わたし、たぶん今も“合わなそうな人”を避けてたと思う。あの子が声をかけてくれなかったら……気づけなかった。Grace: 勉強だけが学びではないと気づけると、人生はもっと豊かになります。
“人と向き合う経験”は、心の知性を育ててくれますから。

ルミはノートにひとこと書き足した。

 

【Grace の問い(親子で10分)】

1)あなたが最近“人との関係”から学んだ心の力を、ひと言で書いてください(例:思いやり/信頼/勇気 など)。

2)その力が役立った具体的な場面を1つ、昨日〜1週間以内の出来事から挙げてください。

3)明日、その力を誰に・どこで・どんな言葉/行動で使うかを1つ決めてください。

 

【落とし穴(3つ)】

1)抽象的な美談だけで終わる(具体がない)。

2)自分を大きく見せる/他人を下げる語りになる。

3)“学び”が行動に結び付かず、記録も残さない。

 

【確認用チェックリスト(3項目)】

□ 心の力が1語で書けた。

□ 直近の具体例が1つ書けた。

□ 明日の相手・場所・言葉(または行動)が特定できた。

 

【今日の振り返り(見本・100字)】

学びは教科書の外にもある。人と向き合う経験は、思いやりや信頼といった心の力を育て、未来の選択を支える資産になる。明日はクラスメイトに1つ感謝を伝え、行動と気持ちの変化を「お金ログ」に記録する。

問い#1:勉強って、何のためにする?

問い#2:勉強以外で学んだ大事なことは何だろう?

問い#3:親から教わった大切なことは?

問い#4:一番話しやすい家族って、誰?

問い#5:好きな教科とその理由は?

問い#6:家族で話すと心があたたかくなる話題は?

問い#7:誰かに教えてもらいたいことはある?

問い#8:家でお金の話、オープンにできる?

問い#9:家族で大切にしているルールはある?

問い#10:家族と一緒にしたい挑戦は何?