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2026-09-10 23:23:00

人物をぶらさない仕組み — キャラクターは、何を願っているのか

AIと小説をつくる仕組み・全8回 第5回

――百回書いても同じ人物でいるために、何を決めておくか

人物をぶらさない仕組み — キャラクターは、何を願っているのか

AIと小説をつくる仕組みを紹介する、全8回連載の第5回です。

前回の 「文体を『憲法』にする — 自分の文章を分解し、直した理由をルールへ戻す」 では、文章の書き方を、判断できる規則にする話をしました。 今回は、その文章の中で生きる人物をどうつくるかです。

『13歳、わたしはお金持ちになると決めた。100の問い』には、ルミと莉子という二人の主人公がいます。 百回にわたって二人を書いていくには、書く日や担当するAIが変わっても、 その人物の行動を選ぶ根拠が必要になります。

私が中心に置いているのは、「キャラクターは、何を願っているのか」という問いです。 その願いを持つ人間を、とことん具体的に想像するところから、キャラクターの設定を始めています。

1.人物を、暮らしと関係からつくる

マインドマップで、人物の輪郭を広げる

キャラクターを考えるときには、マインドマップを使うこともあります。 ひとりの人物を中心に置いて、性格や家族関係、関心のあるものなどを広げながら、 その人の輪郭を探っていきます。生年月日も合わせて考えます。

設定を考えている段階では、本文に出すかどうかだけで情報を絞りません。 どんな毎日を過ごしてきたのか。何を見て育ち、何を当たり前だと思っているのか。 実際にそこにいる主人公たちを想像できるところまで、書き込んでいきます。

人物設定には、「見ているもの」「考えていること・感じていること」「痛み・不安」などの項目があります。 性格を表す言葉に加えて、その性格がどんな場面で、どんな反応として現れるかを考えるためです。

子供の人物像は、家族と一緒に考える

ルミと莉子は、家族との関係の中で育ってきた子供です。 二人の性格を考えるときには、両親やきょうだいとの関係も合わせて考えます。

たとえば、ルミは一人っ子で、莉子には10歳上の姉がいます。 同じ「莉子の姉」に会っても、二人にとっての意味は違います。 ルミには憧れの対象でも、莉子にはずっと同じ家庭で暮らしてきた相手です。

この関係の違いがあれば、同じ言葉を聞いたときの反応も変わります。 人物を単独で細かく設定することに加えて、 誰の前にいるとき、どんな自分になるのか を考えておきます。

一方で、両親には名前をつけず、「父」「母」として物語を進める試みもしています。

両親は重要な登場人物です。 ただ、大人たちの存在が大きくなりすぎると、主人公たちがかすんでしまうことがあります。 家族の人物像は考えながら、読者の目が二人へ戻るように、本文での見せ方を選んでいます。

2.違う願いを持つ二人で、物語を動かす

名前を変えただけの二人にしない

同じ性格で、同じことを考える人を二人並べても、掛け合いは動きにくくなります。 そこで、ルミと莉子は、できるだけ正反対に近い人物として考えました。

出発点から、二人は違います。

人物 出発点 抱えている不安
ルミ お金があれば、遠慮しなくていい 自分は選べているのか
莉子 好きなことがわからない 選択肢が多すぎて、決められない不安

ルミには、手に入れたいものがあります。 莉子は、選択肢があっても、自分が何を選びたいのかを決められずにいます。 この違いを持つ二人が、一緒に何かを始める。 同じ出来事を見ても、先に気になることや、口にする言葉が違ってきます。

その掛け合いや重なりの中で、物語を動かしていくことにしました。

ただし、何もかも反対にすればよいわけではありません。 二人が一緒にいようとする理由も必要です。 違う人間が、どこで相手に惹かれ、どこで噛み合わなくなるのか。 その関係まで考えて、二人を置きます。

願いを、会話と仕草の根に置く

人物を人間らしくするうえで、私がいちばん大切にしているのは、願いを持ってもらうことです。

この人は、一体何を願っているのか。 その願いがあるから、相手に声をかける。言わなくてもよいことを言う。手を伸ばす。逆に、口を閉じる。 会話や仕草の根に、本人が求めているものがあると考えています。

実際の設定には、ルミが店のメニューを開いたとき、右側の数字を先に見るという描写があります。 「お金があれば、遠慮しなくていい」という出発点が、視線の動きに現れています。

願いの内容を、毎回読者に説明する必要はありません。 その人が何を見て、どう動くかに表れていればよい。 書く側では願いを確認しながら、読む側には行動を渡します。

また、人物には、自分でも見えていないことがあります。 設定を知っているAIが、本人より先に理解の整った台詞を書いてしまうと、その人物から離れてしまいます。 そこで、人物ごとに、まだ気づかせないことや、させないことも定めています。

前回扱った「書かないほうの基準」が、ここでは一人ひとりの人物に結びつきます。

3.書いたあとに、その人らしさを確かめる

確認役に、願いと行動を見てもらう

人物設定を書いたら、それを渡して終わりにはしません。 できあがった物語でも、その人物らしさが保たれているかを確認します。 この確認役は、AIエージェントにも任せています。

確認用のファイルには、たとえば次の項目があります。

  • ルミは、この場面で自分から何かをするか。
  • 欲望と弱点が、場面の中にあるか。
  • 台詞・行動・身体の動きで個性が出ているか。
  • 前の回の自分と比べて、どこか変わっているか。

「ルミらしいか」という問いを、本文のどこを見れば判断できるかという形にしています。

人物をぶらさないことと、
人物を変化させないことは違う。

体験を重ねれば、できることも話し方も変わります。 その変化が、ここまで生きてきた本人につながっているかを確かめます。

設定と一致していても、その人物が言うとは限らない

第1回「AIが働く環境をつくった一年」 で紹介したキャラクターエージェントも、この確認に使いました。 AIに人物になりきってもらい、ストーリーや会話文を読んでもらう方法です。

ここで防ぎたかったのは、 設定とは矛盾しなくても、ストーリーを進める都合で本人に言わせてしまうこと です。

性格や知識に合う台詞でも、その相手に、その場で、その言い方をするとは限りません。 何を言うかに加えて、言いたいのか、隠したいのか、いま口にできるのかを考える必要があります。

そこで、設定との一致を見る確認に加えて、 「自分なら本当にこう話すだろうか」という立場でも読んでもらいました。 人物の願いと、その場の言葉のつながりを検討するためです。

この方法の効果を具体的に示すには、元の会話文、AIの指摘、採用した修正を並べて記録する必要があります。 ここでは、確認のために取り入れた方法として紹介しています。

変わったことにも、適用する時期を持たせる

人物を長く書くと、設定の扱いを変えることもあります。

ルミには、考えるときに親指の爪を撫でる癖がありました。 この描写は問い40までとし、問い41以降は使わないと決めています。 癖も、いつまでも繰り返す印にはしません。 使わなくなったことを記録しておかないと、AIが古い設定から再び持ち出してしまいます。

後半の人物像も、前半の項目を上書きせず、別の項目として加えています。 どの時期の人物を書くのかに応じて、参照する設定を変えます。

以前の人物像と、そこから変わった人物像。 その両方を残すことで、変化をたどれるようにしています。

4.詳しく設定することと、公開することを分ける

人物を深く想像するほど、設定には、その時点の読者へ渡せない情報も含まれます。 そこで、公開する範囲も運用として決めています。

ファイルごとに設けている区分は、次の三種類です。

区分 扱い
公開可 共通の確認を行い、公開用の写しを作る
要マスク 指定された範囲を伏せ、公開用の写しを作る
非公開 公開しない

この区分と、伏せる範囲や理由を管理する場所を決めています。 公開のたびに思いつきで判断せず、どこまで出せるかを確認できるようにするためです。 「公開可」であっても、確認なしに原本をそのまま出すという意味ではありません。

内部の原本を保持し、公開用の写しを作って内容を確認する。 記事や教材に編集する場合も、同じ基準を使います。

経営に置き換えると

社内で判断するために必要な情報と、社外に出す資料の情報は一致しません。 何を出せるか、その判断をどこに記録するか、誰が公開前に確認するか。 AIに資料を扱ってもらうときにも、この線引きは人が決めておく必要があります。

人物を詳しく設定することと、その設定をどこまで見せるかを決めることは、つながっています。 制作には必要でも、読者にはまだ渡さない情報がある。 その区別まで含めて、設定を管理しています。

とことん人物を想像すること。
その人の願いを確かめること。
そして、書かれた会話や行動に、その人がいるかを読み直すこと。

設定ファイルには、その判断の根拠を残していきます。 別の日の自分や、担当の違うAIにも、同じ人物から考え始めてもらうためです。

関連する設定ファイル

character_check.md

主人公の主体性、欲望と弱点、台詞や身体の動き、人物同士の関係、前の回からの変化を 確認するためのファイルです。 執筆前と講評時に参照し、気になる箇所を具体的な台詞や行動に即して検討します。

人物設定そのものは公開していません。 この記事では、設定を組み立てる考え方と確認の方法を紹介しました。

前回: 文体を「憲法」にする — 自分の文章を分解し、直した理由をルールへ戻す

次回: 「時系列と確定事実 — 矛盾はここで起きる」