記事一覧

2026-09-23 13:31:00

AIエージェントの出発点は、人間が書いた「テキスト」だ

目的と役割を記した指示文、複数のAIの仕事、電力に支えられたサーバーを描いたイラスト

AIエージェントの出発点は、人間が書いた「テキスト」だ

――目的と役割だけでなく、「いつ止まるか」まで決める

「AIエージェントが自律的に動く」と聞くと、 人間から離れた何かが、自分の意思で活動しているように感じます。

しかし、私がつくったエージェントの実態は、 人間が目的と役割を記したテキストです。 そのテキストをAIモデルに渡すところから、仕事が始まります。

1.「あなたは何者か」を、人間が書く

たとえば「この文章を読んで、読者が分からなくなる箇所を挙げてください」と書けば、 AIに読者の役割を与えられます。

「確定した設定と照合し、矛盾した箇所と根拠を示してください」と書けば、 今度は整合性を確認する役割になります。

モデルそのものが、別の生き物に変わるわけではありません。 人間が目的と役割をテキストで定め、AIモデルがそれに沿って仕事をする。 私には、これがエージェントを理解する入口になりました。

一つの仕事にも、いくつもの役割があります。 書く人、調べる人、読む人、矛盾を確かめる人。 それぞれの結果をつなげると、一つの大きな仕事を進められます。

ただし、エージェントの全体がテキストだけでできているわけではありません。 指示を受けるAIモデルがあり、資料を読んだりWebを検索したりする手段があり、 結果を受けて次の作業に進む仕組みがあります。 テキストは、その全体の目的と振る舞いを決める出発点です。[1]

2.「いつ止まるか」も、書かなければならない

ここで、役割の説明だけでは足りないことに気づきました。

「問題がなくなるまで直す」と書いたら、どうなるでしょう。 AIが文章を直し、別のAIが評価し、また修正を求める。 新しい問題を見つけるたびに、作業が続くかもしれません。

「必要な情報を集める」だけでも、どこまで集めれば十分なのか分かりません。 動き出した後に毎回人間の指示を待たないのなら、 終わり方も先に決めておく必要があります。

調べる

書く

評価する

また調べて書き直す

どこで終える?

たとえば、指示文にはこう書けます。 「重大な矛盾がなければ終了する」。 「新しい根拠のない指摘は繰り返さない」。 「判断が分かれたら、人間に返す」。

さらに、文章上の約束だけに任せず、実行するプログラムにも 作業回数や利用量の上限、承認が必要な操作、停止方法を設定します。 テキストが進み方を示し、実行の仕組みが上限を守る。 どちらも人間が設計するものです。[1][2]

何をさせるかを書くのと同じくらい、どこで止めるかを書く。

停止条件を書き忘れた瞬間に、AIがひとりで起動し、永久に動くという意味ではありません。 人間が動かした仕組みの中で、次の仕事が何度も呼ばれ、 予想以上に長く続くリスクの話です。

3.スピードを求めるほど、止め方が重要になる

私たちの社会では、早く調べ、早く作り、早く決めることに大きな価値が置かれます。 人が一つずつ確認するより、AIが次のAIへ仕事を渡した方が速く見えます。

ただ、速い仕組みは、目標を取り違えたときも速く進みます。 調査結果に誤りがあれば、それをもとに別のAIが文章を書き、 さらに別のAIが整った文章として評価するかもしれません。 外部のサービスを操作できるなら、誤った判断が現実の行動にもつながります。[3]

「AIの暴走」には、いろいろな意味があります。 現在のエージェントで具体的に考えたいのは、 人間が決めた目標や停止条件が不十分なまま、与えられた範囲で望まない作業を繰り返すこと です。

複数のエージェントをつないだからといって、 AIモデルが自分自身を再訓練し始めるわけではありません。 目の前で起き得る反復の問題と、将来の能力向上への懸念は、分けて考えたいと思います。

4.小説制作で、終わらない評価を経験した

私は長編小説を書く中で、執筆、読者視点、会話、情景、設定の整合性、 事業の現実性などの役割をAIに与えました。

ある一話を6つの担当で同時に評価すると、合計で約82.7万トークン。 ファイルの読み込みは131回。 最も遅い担当が終わるまで、約15分かかりました。

評価が84点になり、文章を直す。 次の版ではある評価が上がり、別の評価が下がって、また84点になる。 設定の一文と本文の台詞が衝突したときは、作者が決めない限り、 AIが何度評価しても結論は出ません。

第1版から第9版まで、作者の判断と再評価の往復を含めた経過は2日でした。 大げさな意味での「暴走」ではありません。 でも、何を任せ、いつ人間に戻し、どの条件で完成とするかを 決めていなければ、仕事は予想以上に長くなる。 そのことを、自分の現場で経験しました。

5.AIは、物理資源の上で動いている

この経験で、もう一つ当たり前のことを思い出しました。 AIは文章の中だけに存在するわけではありません。

モデルを動かすサーバー、半導体、メモリ、通信、冷却。 そして、それらを稼働させる電力が必要です。 国際エネルギー機関(IEA)も、AIの利用とデータセンターの電力需要を結びつけて分析しています。[4]

トークンは、AIが扱う文章などを数える単位です。 データセンターに蓄えた燃料ではありません。 私の約82.7万トークンという記録から、電力量を直接計算することもできません。

それでも、計算資源と電力がなければ、AIの処理は続きません。 自律的に見える仕事も、物理的な基盤の上で動いています。

だからといって「電力を止めればよい」で済むわけでもありません。 すでに送ったメールや変更したデータは、サーバーを止めても元には戻らないからです。 仕事を始める前に、権限と終了条件を決めておく必要があります。

6.「何をさせるか」と「どこで止めるか」

エージェントの出発点は、人間が書いたテキストです。 そこに目的と役割を書く。 そのテキストが、AIモデル、道具、計算資源と結びついて、仕事として動き出します。

私は今、エージェントへの指示を考えるとき、 「何をしてほしいか」と一緒に、 「どこまで任せるか」「何を人間に返すか」「いつ終えるか」を考えるようになりました。

AIを速く動かすためのテキストに、止まるための条件も書く。
その条件を、実際に動かす仕組みでも守る。

目的を書くのも、止め方を決めるのも、人間です。 AIエージェントを使うとき、私たちの手元に残しておきたい設計は、 そこにあると思います。

参考資料

  1. OpenAI, OpenAI Agents SDKRunning agents(指示文、道具、反復処理、実行上限)
  2. Anthropic, Building Effective AI Agents(停止条件と人間の判断を含む設計)
  3. Anthropic, Trustworthy agents in practice(権限と人間による制御)
  4. IEA, Energy and AI(データセンターの電力需要)

※制作時の数値は筆者の実行記録によります。トークン数は6つの評価担当の合計であり、 消費電力量や同時実行の所要時間を示す数値ではありません。